HOW TO CHOOSE
ヘアドライヤーヘアドライヤーの風量・風速・風圧|単位が違う「強い風」は、公表資料だけでは並べられない
この記事で分かること
公表値を読み解いて、選ぶ基準を整理。
ヘアドライヤーの「強い風」が、風量(㎥/分)・風速(m/s)・風圧(比率だけ)の3つの量で名乗られていることを、公表資料とJIS C 9613の測り方で並べ直した。単位の違う製品を比べたい人に向けて、2つをつなぐ吹出口の面積が6製品とも確かめられないことを示した。
THE REASON BEHIND THE CHOICE
公表資料から、疑問を読み解く。
公開資料に基づく記事です。実機による検証は行っていません。
目次
商品ページを2つ開いて見比べると、風の強さが別々の単位で書かれていることがあります。片方は「大風量 2.4㎥/分」。もう片方は「風速 約46m/s」。さらに別のページには「大風圧 従来機種から109%にUP」とある。どれも風が強いと言っているのに、単位が3つあります。
㎥/分 と m/s と「%UP」は、同じ強さの言い換えなのか。単位が違う2台を、公表資料だけで並べられるのか。
6製品の風量を規格名ごとに並べ直した比較記事は、㎥/分 という1つの単位の中で話を閉じています。印字された値が3倍ひらくこと、それが規格名で2つの群に分かれること。どれも同じ単位どうしの話でした。ここではその外側にある、単位そのものが違う数字を並べます。
使うのは2026年9月時点のメーカー公表値と、JIS C 9613 の目次と公開されている本文だけです。実機は持っていないので、風を当てて確かめてはいません。そして風速の数字はコイズミの後継機から、風圧の比率はテスコムの旧機種との比較から来ていて、どちらも比較記事の6製品の外にあります。 6製品の表には混ぜず、分けて並べます。
先に結論を書きます。並べられません。 風量と風速をつなぐのは吹出口の面積で、それを公表資料で確かめられた製品は6点で0点でした。しかも JIS C 9613 の中でも、風量と風速は別々の試験の項目です。
6製品では、5点が風量で名乗り、1点が風圧を足している
| 製品 | 強さを名乗る語(メーカー表記のまま) | 名乗っている量 | 値の形 |
|---|---|---|---|
| パナソニック EH-NA0K | ナノケア史上最大風量(商品トップ)/風量(仕様表) | 風量 | 数値(㎥/分) |
| シャープ IB-P300 | 大風量(ニュースリリース)/風量(仕様表) | 風量 | 数値(m³/分) |
| テスコム TD570A | 風量(㎥/分)(仕様表) | 風量 | 数値。JIS規格と自社基準の2つ |
| テスコム TID2400B | 大風量/大風圧(どちらも特長コピー) | 風量と風圧 | 風量は数値。風圧は「従来機種から109%にUP」の比率だけ |
| コイズミ KHD-W915 | 大風量(特長コピー)/風量(仕様表) | 風量 | 数値(㎥/分) |
| ダイソン HD08 | 風速切替(取扱説明書の操作の名前) | 取扱説明書に量の記載なし | 未確認。流通している数値は ㎥/分 |
テスコム TID2400B だけが、同じ特長コピーの中に2つの量を並べています。 「大風量 2.3㎥/分」と「大風圧 従来機種から109%にUP」。風量には値があり、風圧には値がありません。 あるのは従来機種の TID2250 と比べた比率だけで、TID2250 の風圧も、TID2400B の風圧も、何Paとは書かれていない。
この109%の注記に「当社測定法による。」が付き、隣の軽量化の注記には付かないことは、注記の比較対象を4段階に並べ直した記事に書きました。ここで使うのは、3つめの量が、値を1つも持たずに比率だけで出てくるということだけです。
ダイソン HD08 は、取扱説明書が操作を「風速切替」と呼び、「風量」という語を1度も使っていません。それなのに流通している数値は ㎥/分 です。この食い違いは比較記事のダイソンの節と風量の段と風温の段を掛けた記事にあるので、引くだけにします。数値の出どころはメーカーの公表資料で確かめられていないので、表では「未確認」と書いています。
後継機では、同じ規格名のまま、単位が m/s に替わった
3つめの単位は、6製品の外にあります。コイズミ KHD-W915 の後継、KHD-W995 の公式ページでは、仕様表から ㎥/分 が消え、「風速 約46m/s」になっています。
| KHD-W915(比較記事の6製品の1つ) | KHD-W995(後継。6製品の外) | |
|---|---|---|
| 仕様表の強さの行 | 風量|2.4㎥/分 | 風速 約46m/s |
| 仕様表の装着の条件 | 書かれていない | 集風器なし |
| 特長コピーの注記 | ※ノズル無しのとき、測定方法はJIS C 9613に基づく。 | (※2)ノズル使用時、測定方法はJIS C 9613に基づく。 |
「測定方法はJIS C 9613に基づく」という書き方はそのまま残り、量のほうが入れ替わっています。 規格名を据え置いたまま、㎥/分 から m/s へ移った。
そして KHD-W995 では、同じ46m/sに2つの装着の条件が付いています。 仕様表は「集風器なし」、特長コピーの注記は「ノズル使用時」。前の KHD-W915 のページは付属品の欄に集風器だけを挙げていて、その同じページが風量を「ノズル無しのとき」、温風温度を「集風器装着時」と書き分けていました。比較記事はこの2語を同じ部品として読んでいます。同じ読み方をすると、46m/sは仕様表とコピーで装着の有無が正反対です。 ただしコイズミが、2語を同じ部品だと書いているわけではありません。
呼び名も揃っていません。同じ KHD-W995 の温風温度は「HOT 風量5:約90℃(集風器有り)※周囲温度30℃の場合」と書かれていて、看板の数字が風速に替わっても、段の呼び名は「風量5」のままです。ダイソンはちょうど逆で、段の操作が「風速切替」、流通している数値が ㎥/分 でした。量の名前と単位の組み合わせは、1つの製品の中でも固定されていません。
ここで、世代をまたいで「風が強くなったか」を公表値から確かめる道が途切れます。 前の世代は ㎥/分、次の世代は m/s で、同じ量で書かれた値が2世代そろっていない。なお KHD-W995 の公式ページにも、KHD-W915 と同じく生産終了品の表示があります。
JIS C 9613 の中で、風量と風速は別の試験になっている
「JIS C 9613に基づく」は、どちらの世代にも付いていました。ところがこの規格の中で、風量と風速は別々の項目です。日本規格協会が公開しているプレビューで、2021年版の目次に「4.4 風速」「4.6 風量」「8.5 風速試験」「8.7 風量の試験方法」があることを確認しています。中身は、公開されている本文によれば次のとおりです。
| 風速(4.4 と 8.5) | 風量(4.6 と 8.7) | |
|---|---|---|
| 決めていること | 毎秒5m以上 | 取扱説明書などの添付文書に記載している表示値の90〜110% |
| 試験の項目 | 8.5 風速試験 | 8.7 風量の試験方法 |
| 測り方 | 吐出口から30mm離れた位置で、最も速い点の風速をピトー管で読む。ノズル・くし・ブラシなどは外す | この記事では扱わない(規格票で確かめていない) |
| 2007年版の本文 | 風速の試験がある | 風量の試験方法は無い |
同じ規格名の下に、1つの点の速さを読む試験と、風量を求める別の試験が並んでいます。 だから「JIS C 9613に基づく」の一文だけでは、どちらの試験の話なのかが決まりません。決めているのは、その横に書いてある単位のほうです。
古さも違います。2021年の改正より前の版として公開されている本文(2007年版)には、風速の試験はあっても、風量の試験方法がありません。㎥/分 は2021年から入った量で、m/s のほうが規格の中では古い。 規格の形式検査には両方が入っていますが、製品に表示する義務の6項目には、風速も風量も入っていません。
決め方も違います。風量の 4.6 は自分で書いた値からのずれを見る規定で、これは比較記事のほうに書きました。風速の 4.4 は、下限だけを決めています。
KHD-W995 の約46m/sをこの下限で割ると、46 ÷ 5 = 9.2倍です。規格が線を引いているのは毎秒5mのところだけなので、46m/sが規格の中でどのあたりにいるのかは、規格の側からは分かりません。比べる相手も、6製品の中にいません。 読めた5点の公表資料に、m/s の数字は1つもありませんでした(ダイソンは未確認)。
風量と風速をつなぐ吹出口の面積が、6点とも確かめられない
2つをつなぐ式は短いものです。
風速(m/s)= 風量(㎥/分)÷ 60 ÷ 吹出口の面積(㎡)
㎥/分 を60で割ると ㎥/秒 になり、それを吹出口の面積で割れば、出口を通る空気の平均の速さになります。KHD-W915 の2.4㎥/分なら、60で割って0.04㎥/秒。同じ0.04㎥/秒でも、出口の面積が半分なら平均の速さは2倍、2倍なら半分です。計算できるのはここまでで、次の割り算の分母がありません。
- 読めた5点の web の仕様表に、吹出口の寸法の行はありません。 仕様欄を行ごとに書き写してある取扱説明書4点にもありません(記載なし)
- ダイソン HD08 は未確認です。 製品ページを読めておらず、取扱説明書には仕様表そのものがありません
- パナソニックの比較表は「ドライヤーの吹出口における風量」と、風量を測る場所として吹出口を名指ししています。 その吹出口の大きさは書かれていません
吹出口の面積を公表資料で確かめられた製品は、6点で0点です。 ㎥/分 で名乗る製品と m/s で名乗る製品は、公表資料だけでは同じ単位に直せません。KHD-W995 の側からは、そもそも式が立ちません。仕様表から ㎥/分 が消えているので、割られる数のほうが無いからです。
そのうえ、面積が分かったとしても、答えは JIS の風速と同じ量になりません。 式から出てくるのは、吹出口の断面でならした平均の速さです。JIS の 8.5 が読むのは、吐出口から30mm離れた位置の、最も速い点。場所も、ならした値か1点の値かも違います。
KHD-W915 の2.4㎥/分と KHD-W995 の46m/sを式に入れて、面積を逆算することもしていません。別の機種の数字で、付属品の条件も、よりどころにしている試験も違うからです。
購入者の「強い」は、どの量の強さかを言っていない
6製品の購入者の評価を横断すると、風の強さに触れた書き込みはどの製品にもあります。ただし、量を区別して書かれてはいません。
- 6製品すべての高評価の側に、風が強いという評価があります。 印字された風量が6点で最も小さいパナソニックにも、最も大きいシャープにも、同じ形の評価が付いている。書き込みの「強い」から、印字された値の大小は読み取れません
- ダイソン HD08 では、風量の多さを持て余すという指摘と、風圧が物足りないと受け取る人もいるという指摘が、同じ低評価の側に並びます。 高評価の側には、風速を3段階で切り替えられる点を挙げる声もあり、風量・風速・風圧の3語が、1つの製品への書き込みにそろって出てきます
- 場面によって風が強すぎるという指摘は、テスコム TD570A とシャープ IB-P300 にも出ています
- シャープには、吹出口が広くて風がまとまらないという指摘もあります。1製品だけの指摘ですが、吹出口の大きさに触れた書き込みはここにしかありませんでした。 その広さを、ほかの製品と数字で比べる手段は公表資料にありません
「強すぎる」と「物足りない」が同じ製品に並ぶ理由は、書き込みからは分かりません。 言えるのは、購入者の言葉の側でも、強さを言う語が1つに揃っていないというところまでです。
では、何を見ればいいのか
1. 強さの行は、数字より先に単位を見る。 ㎥/分 なのか、m/s なのか、値の無い「%UP」なのか。単位が違う2台は、公表資料の範囲では順位が付きません。つなぐための吹出口の面積が、6点とも確かめられないからです。
2. 規格名は、単位とセットで読む。 「JIS C 9613に基づく」は、㎥/分 の横にあれば風量の試験、m/s の横にあれば風速の試験の話になります。公開されている本文では、風速は吐出口から30mm先の1点の速さを読む試験で、風量はそれとは別の項目の試験です。規格名が同じだから同じ土俵、とは読めません。
3. 付属品の条件を、仕様表と注記の両方で探す。 「ノズル無し」「集風器なし」「ノズル使用時」。KHD-W995 のように、同じ数字に仕様表と注記で別の条件が付いていることがあります。公開されている JIS の本文は、風速の試験ではノズルなどの付属品を外して測るとしています。
4. 「%UP」を見たら、分母の値を探す。 比べた相手の値が書かれていなければ、その%は強さの値として持ち帰れません。TID2400B の風圧は、分母の TID2250 の側にも値がありませんでした。
5. 風速の数字を見たら、比べる相手がいるかを先に確かめる。 JIS が決めているのは毎秒5m以上という下限だけです。候補の中で m/s を公表しているのが1台だけなら、その数字から分かるのは下限との距離だけになります。
6. 前の世代と比べるなら、両方が同じ量で書いているかを見る。 量が入れ替わっていたら、公表値からは「強くなったか」を確かめられません。KHD-W915 と KHD-W995 がそうでした。
7. ㎥/分 どうしでも、規格名まで見る。 同じ単位の中でも、測り方の名前で2つの群に分かれます。単位が揃ったのは、並べるための最初の条件にすぎません。
買う前にやること
- 候補の商品ページで、強さを名乗る行を単位ごと書き写す — 「大風量」「風速」「大風圧」といった見出しの語も一緒に控えます。語と単位がずれている製品があります
- その行の注記記号をたどって、規格名と付属品の条件を控える — 仕様表と特長コピーで条件が違うことがあります
- 単位の違う候補は、強さの数字では比べない — 風の段の数、温風温度の条件、寸法など、同じ形で書かれている行を先に使います
- いま使っている1台の仕様表が、どの単位で書いているかを確かめる — 乗り換えの前後で単位が違えば、公表値どうしで強さは比べられません
- ㎥/分 の6製品を規格名ごとに並べた比較記事に戻る — 単位が揃った候補どうしでも、3倍の開きが測り方の名前から来ていることを、そちらで6点ぶん確かめられます
風の強さを書く単位は、同じカテゴリの中で1つに決まっていませんでした。後継機で入れ替わり、同じ製品の中でも名前と単位がずれる。数字を比べる前に、その数字が何の量で、どの試験の話なのかを見る。 並べられるのは、そこが揃ったものどうしです。